mes récits

硝子透過譚

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アヴァン・ル・ベル

 ドラッグストアーでまず僕がアナタを見た。アナタの形象が影絵シルエットのまま、薄っぺらな静物画ナチユル・モルトみたいになって、身じろぎひとつせず、粗末な黒パイプ椅子に張ついているのを・・・・僕は視た。まだ人影の疎らな店内には前夜の色濃い疲労感が、蜘蛛の巣状の残渣エコーに燻醸され、煤けた天井扇の鈍いモーター音に掻き混ぜられている。アナタは僕の出現に気づいてはいないようだった。けれど・・・・じつは違った。アナタはもう、僕に気づいていたのだ。だからアナタは、僕が声をかけるようとすると、座っていた椅子から弾かれたように立ち上がった。
 灰白の光感の漠・・・・アナタの白いブラウスは慥かに、皺と皺を撚りあわせたようになっており・・・・その表情はシルエットにしか過ぎなかったのだが・・・・硬質で秀美な鼻丘の先端には、収斂された意志ペルシスタンスが顕かに露われていた。ソウ・・・・タッタ、それだけで・・・・僕の気勢は挫かれてしまった。タッタ、それだけで・・・・僕には、ワルイ事が起きていたと解ってしまったのだ。
 アナタの腕が、僕の気分の挫折を見透かしたようにして、不意と差し出された。
 細い左指五本が蓮華ロチユス状に瞠らいた。視ると・・・・そこには雀の死骸が載っていた。僕の視線はそれを捉えた・・・・ソウ、タッタ、それだけで、何となく僕の視覚には光暈アロがかけられてしまった。視線は、入口からカウンターにかけてを斜角も鋭く切り裂いた光域と、陰翳の境目をなぞる恰好で凍りついた。でもアナタは、そんな僕の為体なんぞは意に解する風も見せず、奇妙な呟きを洩らしたのである。
 「モワノォが・・・・硝子窓を透過してきたの。」
 と、目を疑い深そうに翳らせ、アナタが言ってきたことを・・・・僕は・・・・怪訝そうに視線を漠然と、アナタから出口へ逸らせて、アナタの瞳とともにを無視してしまった。僕の視界に・・・・・・・・・・・・陽光厳しく霄壌を灼熱させる真夏は間近・・・・しかし七月の、革命記念日に誕生日を迎えるアナタの視界いっぱいに、この季節には漠然過ぎる灰緑の光感が纏わり付いていた。
 「絶対の事実なの・・・・でもこの事、許容出来るって、思って?」
 アナタは深刻そうにパロルを洩らし、何度も頭を振った。
 「馬鹿げてるけど・・・・眼の錯覚じゃない。これが証拠よ。事実なの、ここに、こうやって雀がいるわ、死んでるけど、まだ羽毛には余熱だって、少し残ってるわ・・・・あなたはどう想う・・・・大変なことなの。生じては不可ないことが生じたのよ。全世界の条理が引っ繰り返る・・・・カタストロフよ。」
©gentchan_2017.(RSS/管理/提供:AL2)
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